横浜地方裁判所 昭和62年(行ウ)17号 判決 1990年10月25日
原告
医療法人社団亮正会
右代表者理事
加藤信夫
右訴訟代理人弁護士
中町誠
被告
神奈川県地方労働委員会
右代表者会長
秋田成就
右訴訟代理人弁護士
大村武雄
右指定代理人
竹内久治
被告補助参加人
総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部
右代表者執行委員長
茅根宏明
被告補助参加人
総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部
高津中央病院分会
右代表者執行委員長
関山進
右補助参加人ら訴訟代理人弁護士
福田護
同
野村和造
同
岡部玲子
同
鵜飼良昭
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
事実
第一請求の趣旨
1 被告が補助参加人らを申立人、原告を被申立人とする神労委昭和六一年不第一〇号不当労働行為救済申立事件につき昭和六二年七月一五日付でした命令を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
第二請求の趣旨に対する答弁
主文同旨の判決を求める。
第三原告の主張
一 被告は、補助参加人らを申立人、原告を被申立人とする神労委昭和六一年不第一〇号不当労働行為救済申立事件につき昭和六二年七月一五日付をもって別紙命令書のとおり救済命令(以下「本件命令」という)を発し、右命令書は同日原告に交付された。
二 被告の事実上の主張は別紙命令書の理由第1記載のとおりであるところ、右事実上の主張に対する原告の認否は、次のとおりである。
1 別紙命令書(略)の理由の第1の1(当事者等)の(1)の事実は認める。(2)の事実のうち、支部(以下原告と被告を除く関係人は、別紙命令書において略称されたところに従って表示する。)が昭和五九年一一月一〇日の第四回定期大会において本部に加盟することを決定し、その後規約を改正して現在の名称に変更したことは否認し、その余は認める。(3)の事実のうち、分会が支部の本部加盟に伴い現在の名称に変更したことは否認し、分会の組合員数は知らない。その余は認める。
2 同第1の2(本件発生前の労使事情)の<1>ないし<3>、<5>、<6>の事実のうち、各事件の存在は認め、その内容は争う。<4>の事実は認める。
3 同第1の3(団体交渉の経緯)の(1)の事実は認める。(2)の事実のうち、原告がそれ以上の内容は説明する必要がないとしたことは否認し、その余は認める。(3)の事実のうち、原告が年次有給休暇を与えない理由を具体的に説明しなかったことは否認し、その余は認める。(4)、(5)、(7)の事実のうち、原告が理由なく予定されていた団体交渉の開催に応じなかったことは否認し、その余は認める。(6)の事実のうち、団体交渉に出席した分会側の者が四名であったことが分会の内部事情によることは知らない。その余は認める。(8)の事実のうち、原告が団体交渉開催の申入れについても同様の対応に終始していたことは否認し、その余は認める。
4 同第1の4(長谷川及び松岡の賃金上の取扱い)の(1)の事実のうち、原告が両名の銀行口座に振り込んだ日が昭和六〇年一二月二七日であることは否認し、その余は認める。(2)の事実のうち、長谷川との雇用契約が反復更新されてきたことは否認し、その余は認める。(3)の事実のうち、松岡との雇用契約が反復更新されてきたことは否認し、準夜勤額が昭和六〇年更新では八三〇円、昭和六一年更新では八四五円、昭和六二年更新では八五五円になることは争い、その余は認める。(4)の事実のうち、松岡に対し翌年度の雇用契約をしないことにつき理由を示さなかったことは否認し、団体交渉申入れについての原告の対応については争い、その余は認める。(5)の事実のうち、時給の差を格差と表現することは争い、原告が長谷川及び松岡を除くナースコンパニオンの契約を更新していること、契約期間の始期が、長谷川の別表Ⅰ中昭和五九年三月一五日、松岡の別表Ⅱ中昭和五九年三月一五日とされていることは否認し、その余は認める。
5 同第1の5(長谷川及び松岡の仕事上の取扱い)の(1)の事実のうち、仮処分決定から昭和六一年一月七日までの経緯についての認否は、同第1の3の(1)、(2)に対する認否と同じであり、岡村総婦長が、長谷川及び松岡の就労再開にあたり、両名の職場まで付き添うことに難色を示し、職場の責任者に職場に混乱が生じないような配慮方を指示することがなかったことは否認し、その余は認める。(2)の事実のうち、石井副主任が、長谷川に対し、何ら作業の指示をしなかったこと、長谷川が、石井副主任に仕事を申し出ても制止されたこと、長谷川及び松岡が職場見学を指示されなかったこと、同僚のナースコンパニオンが、松岡に対し、「命令してもいけないし、ハイと言ってもいけない。困ったわ」と愚痴をこぼしたこと、原告が、松岡に対し、仕事の指示を与えていないことは否認し、長谷川が就労再開の初日に一日中職場に立ち尽くしていたが石井副主任から座るようにとも言われなかったこと、長谷川及び松岡と同僚との間では通常の対話が出来ていないことは知らない。その余は認める。(3)の事実のうち、看護婦室内の医療用家具の清掃などは従来日勤でやっていたこと、峰岸婦長が松岡に対しチェックシートに基づく作業がその日のノルマではないことや追加した従前になかった作業についても時間的余裕があるときに行なえばよいなどの説明をしなかったこと、松岡に対するチェックシートによる仕事の指示が一か月半ほど続いたこと、同病院において、従来、従業員に対してチェックシートにより仕事をさせたことはなかったことは否認し、松岡が一月一五日に疲労による目まいと嘔吐のため寝ていることを余儀なくされたことは知らない。その余は認める。(4)の事実のうち、石井副主任が、長谷川からの仕事の申し出を拒絶し、同人に単調な仕事しか与えず、同人に対し、一月一一日は再生包帯巻きの作業をカーテンを開けた状態で行なうよう指示し、同人がその指示に従ったことは否認し、同人は三か月の間、朝起きたときに手がこわばったり、仕事中でも不快を覚えたりしたこと、カーテンを開けて行なった再生包帯巻きの作業を同僚たちから見られたことは知らない。その余は認める。(5)の事実のうち、ストレーチャー磨きを指示した場所が整形外来の中央受付前であることは否認し、その余は認める。(6)の事実のうち、原告が、従来、ナースコンパニオンのミーティング等の出席を指示していたこと、長谷川につき一一月四日の研修しか事前に伝達しなかったこと、研修該当者に口頭でも伝達していたこと、社員の健康診断を両名に事前に伝達しなかったこと、従来、健康診断日を両名に事前に伝達していたことは否認し、その余は認める。(7)の事実のうち、原告が賃金控除を取り消したのが、労働基準監督署の指導によるためであること、伊藤婦長が、松岡に対し、「年休、あなたはもう年だからだめね。」「仕事をやめてもらわなくちゃね。」とか、年休は一ケ月前に申請してくれなくては困ると言ったこと、長谷川が職場の離席届を出したこと、分会員が団体交渉に出席する場合には離席を認めるという協定があることは否認する。団体交渉申入れへの対応についての認否は同第1の3に対する認否と同じであり、その余は認める。
6 同第1の6(本件救済申立て)の事実は認める。
三 原告が、本訴において、本件命令の取消しを求める理由は、次のとおりである。
1 本件命令の主文第一項(賃金差別による不当労働行為)について
長谷川と松岡の賃金の額は昭和六一年、昭和六二年とも、同人らと原告との間の労働契約で定められたものである。原告は、その労働契約の締結にあたって、契約書案を長谷川と松岡に持ち帰らせ、分会とも相談させ、その同意を得させたうえ、何らの留保を付することなく契約を締結したものであるから、同人らの意思は十分に反映されており、しかも、右賃金の額は、同人らが加盟する分会との間の労働協約でも定められており、原告には右賃金の額を定めるにつき裁量の余地がなく、原告はそこで定められた支払義務を履行しているにすぎないのであって、原告がその裁量による査定をして一方的に賃金を定めたというものではないから、不当労働行為となる余地はない。
また、右賃金の額が不利益であるとされる点についてみると、長谷川及び松岡の時給は、同期採用の他のパートタイマー看護助手であるナースコンパニオンよりも低くはなっているが、その時給の差は一人につき昭和六一年、昭和六二年の二年間で合計数万円にすぎない。これに対し、長谷川及び松岡には他のナースコンパニオンにはない年次有給休暇があり、かつ前年度の未消化年次有給休暇の繰越しが認められているのであるから、長谷川及び松岡の方が有利になっているものである。したがって、同人らに対する右の取扱いは同法七条一号の「不利益取扱い」にあたらず、不当労働行為とはならない。
2 本件命令の主文第二項(長谷川及び松岡に対する仕事上の差別的取扱い等)について
(長谷川に対する対応の正当性)
(一) 就労初日に仕事の指示をしなかったとされる点について
岡村総婦長は、長谷川が就労を再開する日の前日である昭和六一年一月八日長谷川の上司である石井副主任に対し、長谷川の就労再開について配慮するよう指示しており、これを受けた石井副主任は、翌九日、長谷川に対し、「長いことブランクがあったので、今日は見学して下さい。」と指示した。
また、長谷川に対して座るよう指示しなかったことは事実であるが、もともと、立ち仕事が職場の常態であるし、殊更座ることを禁じていたわけではないから、これが不当労働行為になるいわれはない。
(二) 昭和六一年一月一一日以降三か月間は再生包帯巻きなどの単調な仕事しか与えなかったとされる点について
本件命令は、長谷川の就労再開後の仕事内容を殊更に単調なものにしたというが、就労再開後命じられた仕事はいずれも長谷川が従前同人の仕事として担当していたものである。
そもそも、ナースコンパニオンは、パートタイマーである看護助手に対する呼称であり、その仕事は国家資格や専門知識・特殊技能を必要としない比較的単純、単調な補助作業を主たる内容としているものである。
長谷川が以前に従事したことのある患者の介助については、同人が腕章を着用したまま就労し、患者から怖いとのクレームがあったため、医師の判断で従事させないようにしたもので、当然の措置である。石井副主任は、長谷川に対し、腕章をはずしたら患者の介助に従事させると言って腕章をはずすよう求めたが、同人はこれを拒んでいた。
同様に長谷川が以前に従事したことのあるフィルムの整理、伝票の提出、薬品の受領、洗濯物の提出、滅菌物の提出等については、それぞれ仕事のローテーションや提出の締切時間などの関係で同人に命じなかっただけである。このような雑務を誰に担当させるかは、現場責任者である石井副主任の裁量に属することである。一方、長谷川は雑務を担務させられなかったことにより何の不利益も受けていない。
(三) ナースコンパニオンのミーティング等の連絡をしなかったとされる点について
ミーティング等の予定は、毎月のスケジュール表が仕事場の長谷川の机の前の、同人からよく見えるところに掲示されており、確認は容易である。また、健康診断の予定も、実施要綱を示した印刷物が職場に掲示され、かつ、院内放送で当日連絡されているから、連絡をしていないとはいえない。
(松岡に対する対応の正当性)
(一) 就労初日に仕事を指示しなかったとされる点について
松岡の就労についても、就労再開の前日である昭和六一年一月八日岡村総婦長が、松岡の上司であり職場の責任者である峰岸婦長に配慮するよう指示している。
(二) チェックシートでの作業指示により労働過重の負担を強いたとされる点について
チェックシートは、峰岸婦長が夜間は不在で直接指示することができないこと及び松岡に業務上のブランクがあり、業務の流れを再確認してもらう必要があること等から同人に渡されたものである。チェックシートの方式も、病院の他の部署でも用いられているもので、半準夜勤務の内容を転写したものに過ぎない。峰岸婦長がチェックシートの指示内容を一日のノルマとして命じたことはないし、そのやり残しに対し、具体的に注意を与えたこともない。しかも、チェックシートによる指示は二週間で終了している。
(三) ナースコンパニオンのミーティング等の連絡をしなかったとされる点について
ミーティング等の伝達事項は、松岡が確認可能な掲示板に常時掲示されており、健康診断についても、病院から広報が出され、更に当日の院内放送で連絡されているから問題はない。
松岡は健康診断を受ける意欲さえ示していない。
3 本件命令の主文第三項(陳謝文)について
本件命令は、掲示する文書に陳謝文という題で、「当社団は、ここに深く陳謝するとともに、今後このような行為を再び繰り返さないことを誓約いたします。」との文言を入れることを過料・刑罰の制裁を担保にして義務付けているが、これは、沈黙の自由を保障する憲法一九条に違反する。
また、その報復的、懲罰的な内容は、原状回復の趣旨を逸脱し労働委員会の裁量権の範囲を超えるという点でも違法である。
第四被告の主張
一 請求原因一項の事実は認める。
二 被告の事実上及び法律上の主張は、別紙命令書の理由に記載のとおりであり、被告の認定した事実及び判断に誤りはない。
第五補助参加人らの主張
一 本件不当労働行為の背景
分会は、昭和五六年一月二五日川崎地域労働組合高津病院支部として結成され、同年中には分会員数が二〇〇名を越えるまでになっていた。
やがて、原告は、分会に対する攻撃を始め、昭和五七年夏には、分会との団体交渉を避ける態度を示し、同年末には、年末一時金について団体交渉を拒否し、その支給を引き延ばし、ストライキへの違法な介入をし、分会員である嘱託職員の定年後の再雇用を拒否する等の分会攻撃を本格化し、昭和五八年には、昇給、夏季一時金についての団体交渉を制限することで、分会員の昇給と一時金支給をその年の一二月まで遅らせ、また、その過程で暴力集団を導入して暴力事件を引き起こすなどし、更に、昭和五九年四月には、当時の分会の委員長が休職後復職するのを拒否し、同年夏には、ナースコンパニオン等につき、その一時金の支給を遅らせるなどした。こうした原告の分会攻撃のため、この時期までに分会員は二九名に減少した。
このような原告の分会攻撃に対応するため、支部の前身であった川崎地域労働組合は、昭和五九年一一月総評全国一般労働組合神奈川地方連合に加盟し、これに伴い分会は総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎支部高津中央病院分会となったが、原告は、この加盟を巡っての分会内の意見対立を捉え、従前の組合との同一性についての疑義を唱え、分会との団体交渉を拒むようになった。
その上で、原告は、次の分会攻撃として、形式上雇用契約期間を一年として更新を繰り返して来たナースコンパニオンに対し、昭和六〇年二月、三月の契約更新にあたって、前契約期間満了の日と新契約期間開始の日との間に一週間の無契約期間を殊更に置くことによって年次有給休暇を与えないことにし、この条件を受け入れない者については、契約を更新しないという態度に出て、これに応じなかった長谷川及び松岡の契約の更新を拒絶した。そこで、右両名は横浜地方裁判所川崎支部に対し地位保全の仮処分申請をし、昭和六〇年一二月二六日に仮処分決定を得て、昭和六一年一月九日にようやく、職場に復帰して就労を再開した。
前記嘱託職員の定年後再雇用拒否等の分会に対する攻撃については、昭和五八年九月一六日被告により、昭和六二年四月一日中央労働委員会によりそれぞれ救済命令が発せられ、また、分会委員長の復職拒否の問題については、昭和五九年五月一四日横浜地方裁判所による仮処分決定を経てその復職が確保された。
更に、昭和五九年夏季の一時金支給遅延の問題については、昭和六〇年三月一日被告により救済命令が発せられ、この命令は、横浜地方裁判所の昭和六一年四月二四日の判決、東京高等裁判所の昭和六三年三月二日の判決、最高裁判所の平成二年三月六日の判決で維持されたが、原告は昭和六〇年夏冬の一時金についても、昭和五九年と同様、ナースコンパニオン等につき団体交渉を拒否し、夏の一時金については昭和六〇年一〇月三日、冬の一時金については昭和六一年四月二一日、それぞれ横浜地方裁判所川崎支部の仮処分決定により、ようやく仮払をした。
二 賃金差別
長谷川及び松岡についての賃金差別は前項の分会攻撃の一環としてなされたものである。
1 労働契約及び労働協約の存在について
労働契約ないし労働協約の成立及びその内容の形成過程そのものが不当労働行為になる場合もあるから、長谷川と松岡が労働契約を締結したという事実だけで直ちに不当労働行為の成立を否定することはできない。
長谷川及び松岡は、昭和六一年の契約締結時において、賃金が同期のナースコンパニオンと比べると低いのではないかとの疑念は持ちつつも、その点については明確な認識はなかったものである。また、仮に賃金が低いことの認識があったとしても、両名とも前年の契約更新の際に、原告の提示した不当な契約条件を受け入れなかったために原告から雇止めにされるという不当労働行為を受け、大きな負担を強いられたことがあったことから、更新契約締結自体を拒否することは事実上不可能であったものであり、決してこの格差を是認したわけではない。両名をこの状況に追い込んだのは、原告の不当労働行為にほかならない。
また、原告主張の労働協約も、分会の賃上げや一時金の要求に対して、昇給はないことを協定化したものにすぎず、分会は、長谷川及び松岡の時給の額を殊更に低く設定するという原告の不当労働行為を是認したものではなく、この賃金格差の判明後は、原告に対し、繰り返しその是正を要求している。
2 他のナースコンパニオンとのバランスについて
原告は、長谷川及び松岡には年次有給休暇があるから他のナースコンパニオンよりも労働条件は有利であると主張する。しかし、原告は、昭和六〇年一月一六日付でパートタイマー就業規則から年休条項を削除して、他のナースコンパニオンについては一年毎の契約更新にあたり、実質は継続的雇用であるにもかかわらず、一週間の不採用期間を設けることにより、年次有給休暇を与えないこととしたものである。それ自体労働基準法に反する違法な行為であり、労働基準監督署から是正勧告を受けているものであるから、それと比較して長谷川及び松岡の方が有利であるといってみても合理性がない。
原告は、昭和六一年の契約更新の際、両名に対し、年次有給休暇を与えないまま同期のナースコンパニオンと時給で二〇円の格差を付けようとしており、同年三月には、長谷川の年次有給休暇申請を認めずに賃金カットを行ない、労働基準監督署の指導によって、ようやく支払ったのであり、年次有給休暇を与える代わりに時給を二〇円安く定めたのではない。
三 長谷川に対する職場でのいやがらせについて
1 長谷川は、就労再開当日の昭和六一年一月九日に石井副主任から、「そこにいなさい。」と指示されただけで、なにか仕事を申し出ても、「いいです。」と一言言われるか黙殺されるだけであり、同月一一日以降は、再生包帯巻き、綿球作り、小ガーゼ作り等極端に単調な仕事を延々とさせられ、従前行っていた他の仕事は与えられなかった。
2 原告は、長谷川に患者の介助をさせなかったのは、同人が腕章を着用していたためであると主張するが、同人が石井副主任から腕章をはずすように言われたのは就労後二か月も経ってからのことであり、その後腕章をはずしてからも、患者の介助をさせず、同様に腕章を着用していた松岡に対しては患者の介助をさせていたのであるから、原告の右主張は理由がない。要するに、原告は患者の介助も含めて、長谷川には人並みの仕事をさせないという方針であったのである。
3 研修及びミーティングについては、予定表が職場に掲示されていても、改めて上司からの指示、説明を受けなければ、その場所や時間がわからない。健康診断については、原告の広報や院内放送はあっても、具体的に職場内で誰がいつ受けに行くかを調整しなければならない。ところが、長谷川及び松岡に対しては、このような指示、説明、調整は全くなかったから、両名は参加することができなかった。
四 松岡に対する職場でのいやがらせについて
1 峰岸婦長から松岡に対して渡されたチェックシートは、他の職場でも用いられていないもので、従前このような形で渡されたことはなかった。既に五年間も同じ部署で働いていて勝手を十分に知っている松岡に対し、峰岸婦長が改めてチェックシートで指示することはいかにも不自然である。更に、峰岸婦長は、「終わったところをチェックするよう。」指示しているから、松岡がこれをノルマと受け取るのは当然である。しかも、その内容は、広範かつ具体的に記載されており、松岡に対する嫌がらせ以外の何ものでもない。
2 研修、健康診断の点については長谷川の項と同様である。
五 陳謝文について
原告は昭和五七年以降不当労働行為を重ね、これにより分会は潰滅的打撃を受け、一方、労働委員会は原告に対するポストノーティスについて慎重に対応しつつ命令し、それでも不当労働行為を止めない原告に対して少しずつ厳しい文言を用いてきたのであるから、本件命令の主文第三項の陳謝文は正当なものである。
第六証拠関係
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。
理由
一 請求原因一の事実(本件命令の発令及び原告に対する命令書の交付)は当事者間に争いがなく、原告が総合高津中央病院、中央調剤薬局及び高津看護専門学校を経営している医療法人であること、支部が昭和五五年一二月に川崎地域労働組合の名称で結成された地域的合同労働組合であること、分会が昭和五六年一月二五日に総合高津中央病院及び中央調剤薬局の従業員により川崎地域労働組合高津中央病院支部の名称で結成された労働組合で、当初は、川崎地域労働組合の下部組織であったことも当事者間に争いがない。
そして、(人証略)によれば、支部は、昭和五九年一一月に本部に加盟してそのころ現在の名称に変更し、分会は、支部が本部に加盟したことに伴い、昭和六〇年一月二八日に現在の名称に変更したこと、分会の結成後間もなく組合員数は二〇〇名を超えたが、現在の組合員数は六名であることが認められる。
二 本件命令の主文第一項(賃金差別による不当労働行為)について
(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 原告は、看護婦不足に対処するため、昭和五四年以降、看護婦の業務のうちの専門的知識、技術を必要としない部分を担当させ、看護婦を補助するためのパートタイムの看護助手をナースコンパニオンの名称で募集した。
長谷川と松岡は、これに応募し、長谷川は同年二月一九日、松岡は昭和五五年三月三日にいずれも期間を一年とするナースコンパニオンとして原告に採用され、以後、毎年雇用契約を更新してきた。
長谷川、松岡とも、昭和六〇年よりも前から分会員であった。
2 分会は、昭和五七年一二月二〇日被告に対し、原告が年末一時金についての団体交渉を拒否し、ストライキ参加者に対する警告書を交付し、組合脱退工作をしたことなどを理由に不当労働行為救済の申立てをし、更に、昭和五八年一月二一日分会員である助産婦の定年後の嘱託不採用が組合員であることを理由にするものであるとして不当労働行為救済の申立てをしたところ、被告は、同年九月一六日右各申立事件を併合して、警告の撤回、組合脱退工作の禁止、助産婦としての原職復帰等を命ずる救済命令を発した。
原告は、右命令について、中央労働委員会に再審査の申立てをしたが、中央労働委員会は、昭和六二年四月一日概ね被告のした前記命令を維持する決定をした。
3 原告は、昭和五九年四月に、当時の分会の委員長が祖父の看護のために休職した後、復職を申し出たのに対し、これを拒絶した。このため、同委員長は、横浜地方裁判所に賃金仮払仮処分の申請をしたところ、同裁判所は、同年五月一四日復職を有効としたうえ、申請の一部を必要性なしとして却下し、その余の申請を認容した。
4 分会は、昭和五九年七月五日原告が夏季の一時金の交渉において、パートタイマーについては原告の決定に委ねるとの主張に固執して分会員に対してはその一時金の支給を遅らせ、非組合員に対しては先に支給したことが不当労働行為にあたるとして、被告に対し、救済の申立てをし、被告は、昭和六〇年三月一日原告に対し、非組合員への支給の時期よりも遅れた期間の延滞金の支払、分会の運営に対する支配介入の禁止等を命ずる救済命令を発した。
原告は、これについて横浜地方裁判所に救済命令取消しの訴を提起したところ、同裁判所は、昭和六一年四月二四日原告の請求を棄却する判決をした。
5 分会は、昭和六〇年二月二七日原告がナースコンパニオンの契約更新に際し、分会の名称変更により分会などの組織事情が不明確となり従前の労働組合との同一性に疑義があるとして団体交渉を拒否する一方、年次有給休暇の廃止などの雇用条件の変更を提案し、これに同意しなかった長谷川及び松岡を雇止めにしたことは不当労働行為にあたるとして、被告に対し、救済の申立てをし、被告は、同年一二月一三日長谷川及び松岡の原職復帰等を命ずる救済命令を発した。
また、長谷川及び松岡は、分会の右救済申立ての審理中に横浜地方裁判所川崎支部に対し、地位保全等の仮処分の申請をし、同支部は、同年一二月二六日長谷川及び松岡の地位保全と賃金の仮払を命ずる仮処分決定をした(右各救済命令申立事件、仮処分申請事件等が係属し、各救済命令、仮処分決定等がなされたことは、当事者間に争いがない。)。
6 長谷川及び松岡は、原告に雇用されて以来、他のナースコンパニオンと同様毎年雇用契約を更新してきたところ、原告は、昭和六〇年の更新時期を迎え、従来ナースコンパニオンについても他の従業員と同じように年次有給休暇を認めてきたのを見直し、ナースコンパニオンについては、一年間の契約期間が終了したのち、一週間の空白期間を設けたうえで再契約をすることとし、年次有給休暇の制度は廃止し、その代わりに六日間の特別休暇を認める旨の方針を示した。
他のナースコンパニオンはこれを承諾して再契約をしたが、長谷川と松岡は、右雇用条件の変更は不当に労働条件を低下させるものであるとしてその条件で契約をすることを拒否した。そのうちに、長谷川については同年二月一八日に、松岡については同年三月二日に雇用期間が満了したので、前記のような救済申立て及び仮処分申請がなされたものである。
7 原告は、前記仮処分決定を受けて、長谷川及び松岡に対し、同年一二月二七日付で就労通知を出した。右就労通知は、右両名の従業員としての仮の地位を認めて就労を命ずるとともに、就労期間は、長谷川については昭和六一年二月一八日まで、松岡については同年三月二日までとするものであった。これに対し、分会は、昭和六〇年一二月三〇日付で長谷川及び松岡の労働条件が明らかでないとして、原告に対して団体交渉を申し入れ、原告は、昭和六一年一月七日分会に対し、書面で、両名については仮処分決定のとおりで、労働条件は昭和五九年の雇用契約書の内容と同一であるとの回答をした。右契約書には、職務、雇用期間、勤務時間、休憩時間及び給与の事項以外はパートタイマー就業規則によるものとするとの記載があったが、そのころの就業規則には有給休暇を与える旨の定めはなかった。
8 長谷川及び松岡は、昭和六一年一月九日に就労を再開した。以後、昭和六一年の雇用契約締結をめざして原告と分会との間のやりとりがなされ、同月一一日に原告と分会との間で、長谷川及び松岡の雇用条件についての団体交渉が持たれたが、原告は、賃金は仮処分決定のとおりで年次有給休暇は与えないと回答、話し合いはもの別れに終わった。その後、分会は再三にわたって団体交渉を申し入れたが、交渉員の人数問題で双方の合意が成立しないまま推移しているうちに、長谷川について原告のいう就労期間の終了時期が近付いたため、原告は、同年二月一七日長谷川に対し、同月一九日からの一年間の雇用契約書の案を作成して提示した。右契約書案は賃金を時給七四五円とするものであった。長谷川はこれを持ち帰り、分会の役員らと検討したうえ、時給の額が昭和五九年の額と同一で、他の同期のナースコンパニオンの時給よりも低い可能性があり、年次有給休暇の点も不明確で問題があると考えたが、前年の雇止めの経緯もあることから、右契約書案で契約をすることにし、同月一八日原告との間で昭和六一年の雇用契約を締結した。
9 原告は、同年三月一日松岡に対しても雇用契約書案を提示した。松岡は、長谷川と同様これを持ち帰り、分会役員と協議したうえ、同月三日原告との間で昭和六一年の雇用契約を締結した。右契約による松岡の賃金は、昭和五九年と同額で、時給七二五円、準夜勤の場合は八二五円であった。その後、長谷川と松岡は、いずれも昭和六二年の二月と三月に契約を更新したが、時給額は、長谷川が七五五円、松岡が七三五円(準夜勤の場合は八三五円)であった。
10 前記のとおり、長谷川と松岡以外のナースコンパニオンは、昭和六〇年の契約更新時に原告の提案を承諾して、一週間の空白期間を置いて再契約をした。同人らには年次有給休暇の制度の適用はなく、六日間の特別休暇を与えられている点で長谷川及び松岡と異なる取扱いになっており、時給額も、長谷川と同期の他のナースコンパニオンは、昭和六〇年の更新期に七五〇円、昭和六一年は七六五円、昭和六二年は七七五円になり、長谷川とは昭和六一年以降時給二〇円の差がついた。松岡と同期の他のナースコンパニオンの時給額は昭和六〇年の更新期に七三〇円、昭和六一年は七四五円、昭和六二年は七五五円になっており、松岡とは昭和六一年以降時給二〇円の差がついた。なお、昭和六〇年以降も準夜勤をしている松岡の同期のナースコンパニオンはいないから、準夜勤の時給額を同期のナースコンパニオンと比較することはできないが、従来準夜勤の時給額は日勤の一〇〇円増しになっていた。原告は、長谷川及び松岡と昭和六一年の雇用契約をする際、同人らに対し、同期の他のナースコンパニオンの時給額との間に格差があることも格差をつけた理由も告げなかった。
右認定の事実によれは、原告が昭和六一年の雇用契約締結時以降、長谷川及び松岡の賃金につき、他の同期のナースコンパニオンと比べて時給で二〇円の格差を付けたのは、同人らが、昭和六〇年の契約更新期に、原告の雇用条件変更の提案は不当に労働条件を低下させるものであるとしてこれに応じなかったばかりか、雇用条件変更に応じないことにより雇止めをしたのに対し、分会等が不当労働行為であるとして救済の申立てをし、更に、同人らが債権者となって地位保全等の仮処分申請をし、結局分会を背景に同人らが復職したことを嫌悪したためとみるのが相当である。
原告は、長谷川及び松岡の時給は同期採用者よりも低くはなっているが、他の者には年次有給休暇がないのに対し、長谷川及び松岡にはそれがあり、その点で有利になっているから不利益取扱いではないと主張するが、前認定のとおり、原告は、長谷川及び松岡との間で昭和六一年の雇用契約を締結する際に、同人らに対し、同期採用者との賃金の差が存在することも長谷川及び松岡には年次有給休暇がありその分他の者よりも有利になっていることも一切説明していないのであるから、右契約締結の経緯をも考慮するとそのような理由で賃金の格差をつけたとは到底認めることはできない。
また、原告は、賃金額は長谷川及び松岡に十分検討する時間を与えたうえ締結された雇用契約で定められたもので、一方的に原告が定めたものではなく、原告はただ契約上の義務を履行しているだけであるから、不当労働行為が成立する余地はないと主張するが、合意で定められた事柄であっても、その合意に至る経緯も含め全体的に見て不当労働行為の成否を検討すべきものであるところ、前認定のとおり、長谷川も松岡も、他のナースコンパニオンとの賃金格差が存在する可能性は認識していたが、前年度の契約更新の際に原告の雇用条件の変更に応じなかったため雇止めをされ、ようやく復職するに至ったことから、賃金格差についてはとりあえず問題にしないで契約締結に応ずることにしたものとみるべきであるから、右主張も理由がない。
したがって、賃金に右格差を設けたことは、長谷川及び松岡が組合員であることないしは組合の正当な活動をしたことを理由とする不利益扱いであると同時に、同人らを動揺させることにより分会に打撃を与えることを狙った行為というべきであるから、労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為であるといわざるを得ない。
被告が右賃金格差を不当労働行為であると認定した判断に誤りはなく、救済措置の選択に被告の裁量権を逸脱した違法もないというべきである。
三 本件命令の主文第二項(仕事上の取扱いの差別による不当労働行為)について
(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 前記のとおり、長谷川及び松岡は、昭和六一年一月九日から就労を再開したが、就労の前日である同月八日支部の茅根委員長は原告の増元総務部長に対し、就労を円滑にするため、就労に際しては岡村総婦長が職場まで両名に付き添って事情を説明するなどして、職場に混乱が生じないよう配慮してもらいたいと申し入れ、増元総務部長はこれを了承した。
ところが、同月九日長谷川及び松岡が出勤したところ、原告は、長谷川と松岡の出勤簿も勤務割表も用意していなかった。また、整形外科外来で勤務していた長谷川は、職場の責任者である石井副主任に具体的な作業の指示をもとめたが、石井副主任は、何の指示も出さず、長谷川が具体的に作業を申し出ると不要であると言ってこれを拒絶した。このため、結局、長谷川は一日中仕事をすることもなく過ごさざるを得なかった。
2 石井副主任は、長谷川の就労後少なくとも三か月間は、同人を整形外科外来の看護職員の共同作業の中に組み込もうとせず、同人に対し、再生包帯巻き、綿球作りなどの単調で他の職員との連携を伴わない作業のみを指示した。
その後は、長谷川が指示される作業に多少の幅が出てきたが、雇止め以前のようには仕事に充実感を持てるような作業を指示することはなかった。
3 松岡は、就労再開の日に岡村総婦長に付き添われて雇止め前の職場である内科四西病棟に行ったが、職場の責任者である峰岸婦長は、松岡が作業の指示を求めても明確な指示を与えなかった。
その後も、具体的な作業の指示はなされないままに経過し、松岡は、同僚のナースコンパニオンに仕事の手伝いを申し出たが、「今は口のきき方が難しい。命令したらいけないし、はいといってもいけない。」と告げられて、手伝いを断られたりした。
4 再就労後四日目である同月一三日の準夜勤の際、峰岸婦長は、他の看護婦を介して松岡に対し、準夜勤の場合の作業表(チェックシート)を渡した。右作業表は、午後六時から一時間ごとにする作業を記載したものであるが、その外にも、準夜勤勤務での通常の作業があることを考慮すると作業負担を異常に重くする内容のものであり、しかも、右作業表の内容は一晩ですべての作業を完了させることを要求するものとしかみられないものである。右作業表は二週間以上松岡の所に置かれていた。松岡は、右作業表を渡された当日と翌一四日に作業表の内容をできるだけ忠実に実行しようとして、過労で倒れた。
5 従来、病院内では、従業員の健康診断やナースコンパニオンの研修については、予定表の掲示、書面による連絡のほか婦長等から該当者に対する口頭の事前連絡が行われていたが、再就労後は長谷川及び松岡に対して口頭での連絡、指示はなされなかった。
右認定の事実によれば、長谷川及び松岡が昭和六一年一月九日に再就労した際に、同人らの上司が具体的な作業指示をしなかったこと、その後、長谷川に対しては、職場で他の看護職員と連携し、一体となって仕事をし、あるいは、充実感をもって仕事をするのを阻むものとしか考えられないような単調な作業の指示が続けられたこと、松岡に対しては、過重な作業指示をしたこと、研修、健康診断等の案内を口頭で事前にしなかったことは、いずれも、長谷川及び松岡を前記のような理由から嫌悪した原告の意向を受けてなされたものとみるのが相当である。
原告は、長谷川が単調な作業をさせられた点について、もともとナースコンパニオンは単調な補助作業をするものであるし、それらの作業は従来長谷川が担当していたものであるから、不利益な取扱いではないと主張するが、長谷川は従来他の看護職員と連携してさまざまな作業をしていたのに対し、再就労後は、ごく限られた単純作業を、他の看護職員とかかわることもなく指示されていたのであるから、右主張は理由がない。
したがって、仕事上の右取扱いは、いずれも、長谷川及び松岡が組合員であることないしは組合の正当な活動をしたことを理由とする不利益扱いであると同時に、同人らを動揺させることにより分会に打撃を与えることを狙った行為というべきであるから、労組法七条一号及び三号に該当する不当労働行為といわざるを得ない。
被告が右仕事上の取扱いを不当労働行為であると認定した判断に誤りはなく、救済措置の選択に被告の裁量権を逸脱した違法もないというべきである。
四 本件命令の主文第三項(陳謝文)について
本件命令の主文第三項が、原告に対し、陳謝文という題の下に、「当社団の次の行為は、神奈川県地方労働委員会によりいずれも労働組合法第七条に該当する不当労働行為であると認定されました。当社団は、ここに深く陳謝するとともに、今後このような行為を再び繰り返さないことを誓約いたします。」との文言を、縦一メートル、横二メートルの白色木板に楷書で明瞭に墨書し、被申立人の経営する食堂内の従業員の見やすい場所に、見やすい状態で一〇日間掲示するよう命じていることは、当事者間に争いがない。
右掲示文には「深く陳謝する」、「誓約します」との文言が用いられているが、それは、原告において、同種不当労働行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないものであり、原告に対して陳謝、反省等の倫理的行為を要求することは、右命令の本旨とするところではないと解されるから、この文言による掲示を命ずることは、憲法一九条に違反しない(最高裁判所平成二年三月六日第三小法廷判決、判例時報一三五七号一四四頁参照)。
そして、陳謝文(1)でいう昭和六一年春季賃上げに関する団体交渉において、原告が不誠実な対応したことは、(証拠略)及び弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。陳謝文(2)でいう不当労働行為があったことは先に判断したとおりである。これら本件事案に鑑みると、右陳謝文の内容が被告に認められた裁量権の範囲を逸脱するものではないというべきである。
右命令が憲法一九条に違反し、かつ、裁量権の範囲を逸脱したものである旨の原告の主張は、理由がない。
五 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小林亘 裁判官 山本博 裁判官 吉村真幸)